「婦人科疾患の腹腔鏡下手術」について
手術により人体につける傷を減らし、患者さまの負担を軽減する低侵襲の治療が広がっています。腹腔鏡下手術もその一つで、お腹の中(腹腔)内にある臓器の手術に幅広く活用されています。
産婦人科でも良性疾患では幅広く実施され、卵巣のう腫や子宮内膜症、子宮筋腫、多嚢胞性卵巣などの不妊症手術にも活用されています。
また治療だけでなく、子宮外妊娠の診断や卵管の疎通性の確認など、診断目的のみで行う場合もあります。
術後の癒着が少ないため将来の妊娠に悪影響を及ぼすことが少ないなど、婦人科疾患の治療には非常に有用と言えるでしょう。
当院では、子宮体がん・子宮頸がんの腹腔鏡下手術ができます
良性疾患では広く実施されている腹腔鏡下手術ですが、婦人科の悪性腫瘍での適応は限られています。
当院では、子宮体がんに対して、平成25年10月に先進医療認定、平成26年4月からは保険適用認定、子宮頸がんに対しては平成28年10月に先進医療認定、平成30年4月からは保険適用認定を取得し、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医および日本婦人科腫瘍学会専門医の高い技術のもとで手術を行っています。
腹腔鏡下手術とは
腹腔鏡下手術では、皮膚を数カ所0.5~1.5cm程度切り開いて穴を作り、腹腔鏡(内視鏡カメラの一種)とマジックハンドのような専用の手術器具を腹腔内に挿入して、腹腔鏡によって映し出される内部の様子を確認しながら手術を行います。
腹腔内に炭酸ガス(二酸化炭素)を注入して膨らまし、骨盤高位(頭を骨盤部より低くする)にして腸を上部に押しやることで、手術に必要な視野と器具を動かすスペースを作ります。
対象疾患
- 子宮体がん
当院は施設認定を受けており、早期子宮体がんに対しての根治手術が実施できます。
- 子宮頸がん
当院は施設認定を受けており、早期子宮頸がんに対しての根治手術が実施できます。
- 卵巣嚢腫(皮様嚢腫、粘液性腺腫、漿液性腺腫など)・卵管嚢胞
温存を希望する場合は「付属器(卵巣・卵管)腫瘍摘出術」
→病巣のみを取り除きます。
妊孕性の温存を必要としない場合は「付属器摘出術」
→病巣のある側の卵巣や卵管を切除します。
- 子宮筋腫
子宮を温存する場合は「子宮筋腫核出術」
→筋腫だけを取り出します。
妊娠の希望がなく子宮温存の必要がない方の場合は「子宮摘出術」
→子宮そのものを摘出します。
- 子宮内膜症
(骨盤内癒着、チョコレート嚢胞、子宮腺筋症、深部子宮内膜症)
子宮内膜症には様々な症状や病態があります。
それぞれの症状に合わせ、妊娠の希望等を伺いながら切除範囲を決定します。
- 不妊症治療(卵管水腫や卵管閉塞、多嚢胞性卵巣症候群など)
腹腔鏡による不妊症検査の他、卵管形成、卵管切除などの治療を行います。
- 子宮外妊娠
卵管温存に適応していない場合には「卵管切除」
卵管温存に適応している場合には「卵管線状切開」
腹腔鏡下手術のメリット
- 傷が小さいため、傷が目立たず、痛みも少ない
開腹手術の傷に比べて傷口が小さいため、傷跡が残りにくく美容的にも優れ、術後の痛みも少ないです。
- 入院期間が短く、社会復帰が早い
痛みが少ないためリハビリ等もすぐに開始でき、手術後の回復が早く短期間で退院できます。
- 癒着が少ないため、妊孕性の保持に有用
卵管などの癒着が起こりにくいため、癒着が原因となる不妊症を防ぐことができ、妊娠を希望される女性には特に有用です。
- 医療者:細かい部分が見えやすく情報を共有できる
拡大した手術部分をモニターで見ながらの作業のため、細かい部分が見えやすくなり、骨盤内の死角も解消します。また、術者全員が同じ視野を共有でき状況を把握できることで安全に手術が行えます。
腹腔鏡下手術のデメリット
- 手術時間が長くなることがあります。
- 拡大画面が見られる反面、肉眼でみるより視野が狭く、手術の難易度が比較的高くなります。
- 摘出物が大きい場合、取り出し(回収)が困難な場合もあります。
- 予期できない出血や癒着のため、ごく稀に開腹手術に移行したり、輸血が必要な場合があります。
- 炭酸ガスでお腹を膨らませることで、心臓や呼吸器合併症、炭酸ガス塞栓症などが稀に起こる場合があります。