乳がんの治療はこれまで多くの研究が重ねられ、科学的根拠(エビデンス)を基に、専門家が最も効果的であると合意された標準治療が「乳癌診療ガイドライン」として日本乳癌学会から定期的に刊行されています。
この標準治療や国際的なガイドラインをベースにしながら、様々な治療法を患者さんの状況に合わせ、どう選択しどのようにするのか、個別化医療もすすんでいます。
以前の乳がん治療は、がんを取り除くことを目的に乳房とリンパ節を広く切除していました。リンパ節の切除によるむくみなどは、生活の質を下げる要因にもなっていたのです。
しかし今では、比較的早期からでも目に見えない微小ながんが全身に転移していることが少なくないと考え、乳がんを「全身疾患」と捉えています。そのため、見える範囲のがんを手術で切除し、乳房内に広がっているかもしれないがん細胞は放射線治療で、全身に広がっているかもしれないがん細胞へは薬物療法で治療を行っています。
今では乳房温存手術が標準となっており約60%の乳がんが乳房温存治療法で治療されています。また、やや大きい乳がんでも、手術前に化学療法を行った後に乳房温存手術を行うことがあります。どうしても乳房切除が必要な場合でも乳房再建の道が残されています。 自家組織を用いての再建以外に、2013年7月に人工乳房が保険適応になったことから、人工乳房という選択肢が増えたのは朗報と言えるでしょう。
乳房の自家組織再建、人工乳房共にメリット・デメリットがあるため、しっかりと理解したうえでの選択が必要です。
乳房温存療法が可能であればそれにこしたことはありませんが、がんの広がりから乳腺切除量がある程度以上になると、残された乳房はきれいに修復できません。その場合、無理に乳房温存療法にこだわるより、乳房切除+乳房再建が推奨されます。
薬物による治療(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的治療、免疫療法)は国際的に認められた標準治療に準拠して行っています。日本乳癌学会ガイドライン、ザンクトガレン国際会議の推奨治療、米国NCCNガイドラインなどがこれに相当します。
点滴での抗がん剤投与は、乳がん高度検診・治療センターに隣接する外来化学療法センターで快適に受けていただけます。
多くの乳がんは、女性ホルモンによって増殖します。乳腺は女性ホルモンのコントロール下にあるため、乳腺のがんである乳がんは、女性ホルモンの影響を受けやすいのです。
ホルモンに感受性があるタイプのがんには、女性ホルモンの分泌を抑えたり、女性ホルモンががんに作用するのを抑えたりすることでがん細胞の増殖を防ぐ「ホルモン療法」が効果を発揮します。女性ホルモンは閉経後でも作られますが、閉経前後で使われる薬剤は異なります。
ホルモン感受性がなかったり、ホルモン療法だけでは不十分な場合には、抗がん剤治療(化学療法)の対象になります。抗がん剤にはがん細胞を死滅させる効果がありますが、正常な細胞の一部も死滅させる作用もあり副作用も発生します。しかし現在では、吐き気を抑える制吐薬など副作用を緩和する支持療法も進歩してきました。
化学療法センターでは16台のリクライニングシートでテレビや音楽を鑑賞しながら化学療法を受けていただけます。
また、化学療法に伴う副作用など異常が出現した際にも、乳腺専門医がすぐに対応できる体制が整っています。
化学療法剤の点滴作成には、清潔で精密・正確な混合調製(ミキシング)が必要とされます。そのため、局所作業環境を清浄に保つ「清潔フード」の中で調剤、充填されています。
また、厳重に管理されたレジメン(投与する薬剤の種類 や量、期間、手順などを時系列で示した計画書)を二人の薬剤師が互いに確認しながら行っています。
抗がん剤と違い、特定の性質を持った特定の分子に働きかけることで効果を発揮。抗がん剤に比べ、比較的副作用が少ないことが特徴です。
20~25%の乳がんの細胞表面には、HER2(ハーツー)という受容体があり、正常な細胞では増殖や分化などの役割があります。このHER2陽性がんに対しては、HER2に結合してがん細胞だけに作用し、がん細胞の増殖を防ぎ死滅させるトラスツズマブ(ハーセプチンやペルツズマブ(パージェタ))という薬剤を使用します。